ホノルルの銃砲店
ホノルル市内には大小様々な、ガンショップが5件ほどある。どのショップも観光客の多いワイキキ・エリアより少し離れた場所にあり、市の条例も絡んでいると思うが、ショップは地元の人向けなので致し方ない。
また、ショップの店員もお客もアジア系の人たちが多く、20年昔に自分が住んでいた、カリフォルニア州に帰った様で何とも懐かしい。
ハワイでも店員達は軽いポリマー系9mmを腰のホルスターに入れてたまま接客していた。装弾した実銃を腰に差すのは、義務でも格好を付ける為でも無く、犯罪の抑止力の為である。実際に、営業中のガンショップを襲って成功例は聞いたことが無く、蜂の巣になっても大丈夫なターミネーター位しか実行出来ないだろう。
M1911A1の魅力
体の大きな店員の1人はM1911A1(以下M1911)のコンパクトを挿していたが、これも懐かしかった。カリフォルニアのガン・ショップで働いていた時には、米国人の店員に唆されて、重たいM1911のフル・サイズをズドンと腰に差していたものだ。時代は流れ、銃のトレンドは多弾数で軽量のポリマー・フレーム系へ移行したので、M1911系を含む金属フレーム銃をレンジでも見る機会も随分少なくなったが、その存在は未だに消えることは無い。少し前置きが長くなったが、今回は、登場から105年目を迎える驚異のロングセラーM1911を射的屋目線で語ろうと思う。
M1911の魅力は以下でないかと思う。
・特殊工具なしで完全分解可能
・豊富なカスタムパーツ群とコンペティションでも常勝の実力
・絞りやすいSA(シングル・アクション)トリガー
・最良の位置にあるマニュアル・セフティ
・.45ACPの持つストッピング・パワー
ミリガバの欠点
マーク・ワンでもM1911の射撃を体験できる様に、スプリング・フィールド製のM1911レンジ・オフィサー(RangeOfficer)モデルを導入している。その理由は、既製品でありながら、ユーザーが使い易いように最初から改良されているからである。
日本では「ミリガバ」と呼ばれる、軍で採用されたM1911ミリタリー・ガバメントの人気が高い話は有名だ。シンプルでタフな軍のトライアルをクリアしているので質実剛健で優秀であるというイメージは当然かも知れない。
しかし、どんなマスターピースにも弱点があることを事前にお断りしておきたい。特にミリガバのメジャーな問題点は、グリップセフティ上部が短く、射撃時にハンマーとセフティの間にシューターの親指の付け根を挟む「ハンマー・バイト」を発生させ易いことである。勿論、これを受けると手に怪我をするので握り方を工夫するか、グローブをして撃つしか無く、銃としては欠陥である。この点では、現在の多くのM1911系が延長されたビーバー・テール型のグリップセフティを使っているのを見ればわかるはずだ。
更に、ミリガバのマニュアル・セフティの形状も薄くて親指では操作しにくいので、実戦は勿論、コンペティションでコック&ロードからの即射を行う際にも危なかしい。
更にミリガバの問題点を列挙すると
・スリムなミリタリー・サイトは照準に時間が掛かる。
・短いミリタリーマガジンは装弾ミスをしやすい。ボトム(底)も反動で変形する。
・マガジンウエル部分が狭いのでマガジン・チェンジにもたついてしまう。
・マガジンキャッチが短くスプリング・テンションが高いので親指で押すのに力を要する。
・トリガーリーチが短すぎで引き辛い。
・プラ製のグリップはリコイルで割れやすい。
列挙したマガジンの問題を具体的に説明するとM1911系のミリタリー・マガジンは下部に何らかのダンパーを付けないと、マガジン・キャッチ・スプリングのテンションに押されて、本体にしっかり挿入し辛いので、その結果、初弾の装弾ミスを出し易いのだ。
レンジ・オフィサー・モデルは、上記の殆どが改良されているが、唯一、マガジンはノーマルだったので、ChipMcCormick製に交換しているのと、92FSと同様に、リーチの長いマガジン・キャッチを付け替えただけである。リア・サイトは既に大型のアジャスト式が装備されているので、この点でもレンジでは使い易い。
最後に何故、M1911ならばオリジナルのコルト製の銃を選ばなかったのか?というと、昔から、装弾時に弾が滑り上がるフィーディング・ランプとチャンバー内の仕上げが今一つで、前後のサイトの取り付けにも手を抜いているので、10,000発を超えるとガタが来る場合が多いからだ。我々が使う銃は、25,000発の実射に耐えないと役不足なのだ。
プロ用の銃として
米国人には未だに.45ACP信者がいる。数々の対外戦争の史実がそれを物語ってはいるが、根底には100kgを超える巨体が多い自分たちのボディを基準に考えていることも理由の1つだ。確かに大口径の弾は物理的に相手を止めるストッピング・パワーに優れ、現に海兵隊では、100年以上の時を超えて、レール付のCQBTを再採用している。
しかし、実射面では、9x19mm+Pの方が実包の重量が半分でありながら、射程、貫通力やエネルギーでも遥かに.45ACPに優っている点をまず、判断した方が良いだろう。
更に、レンジで100万発を超えるハンドガンの実射指導をしたが、M1911はメジャーな9x19mmの銃よりも作動率が落ちる傾向にある。これは、.45ACP実包の形状を見ても分かる様に、太く大きな弾は、物理的にカーボンの汚れを早く発生させやすく、同時にシューターのグリップの加減でもジャムを生み易くなるからだ。実際に、レンジではM1911系の閉鎖不良(OutofBattery)は日常茶飯事である。
また、手袋をして撃つと、閉鎖不良に加えてリップ・セフティを握りきれずに発射出来ない等の問題も起こしてしまう。つまり、M1911は今の時代には、あまりにも、玄人向け過ぎる銃なのだ。
では、M1911系は米国の殆どの執行機関から消え、何処へ行ったのか?それは、実戦が想定されるシビアな現場では無く、M1911の持つパワーや精度を支持するファン達によっても支えられているし、勿論、コンペティション等のスポーツ射撃においても、銃を知り尽くしたシューター達によってハイレベルなカスタムを施された上で活躍している。
M1911の心臓部とも呼べる各操作系部分。
ミリタリー・マガジン(右)は論外だ。
マガジンウエルの傾斜も最低条件だ。
レンジでは大型のアジャスト式サイトが狙いやすい。
M1911A1 による 25yd からの結果。ターゲットの直径が 200mm 程度なので半分の 100mm 前後に集弾すれば合格点だ。
M1911実射のコツ
土日で賑わうホノルルのレンジ。
勿論、海外のレンジで撃つときには、そんな能書きは無視して、1世紀を超えたM1911の性能を楽しんで頂きたい。初めて体験した人の感想の多くはM1911は「撃ちやすい」と言う。理由は何だろう?
その理由の多くは、グリップが9mmDA(ダブル・アクション)オート系よりも少し細いので日本人の手にも「握りやすい」ことと、SAトリガーを感覚的に人差し指で「引きやすい」ことである。実際、M1911のトリガー方式は、同じ設計者ジョン・ブローニングが後世に設計したブローニングHPよりも断然優れている。
M1911A1 で 50~100yd 先のスチールを狙うシューター。土日にはハンドガンのロングレンジ射撃が楽しめるぞ。
そのM1911のトリガーの感覚を掴む為に、前回の92FSと同様にインストラクターにお願いして、ドライ・ファイアを少し試させてもらえば良いだろう。SAでも、ディスコネクターとシアに当たるまで僅かなトリガーの遊びがあるので、ここを、よく確認した方が良い。そこからトリガーを引いてハンマーが落ちるまでの挙動はDA銃よりも直感的である。
また、実射時のM1911のリコイルは強烈なので、92FSの時よりも、左手のグリップをしっかりホールドした方が良いだろう。一発撃てば、頭が空になり、最初のドライファイアの感覚を忘れ易くなるがが、発射毎に銃を目線から下さずにフォロー・スルー(残心)する様に心掛けよう。射撃中に.45ACPのリコイルで上体が起きてしまう人を良く目にするが、前傾姿勢の維持も必要だ。
大小様々なスチール・ターゲットが 50~100yd に並ぶ。.45ACP は弾頭が重く当たるとターゲットが派手に動くので面白いぞ!
ストック(既製品)のM1911は、レストで撃っても92FSよりやや精度は落ちるが、25yd(23m)で12インチ(300mm)以内に纏めるのを当初の目標にして頂きたい。
最後に、レンジでのマナーについてだが、エアガンと違って実銃のリコイル・スプリングのテンションは恐ろしく強い。もし、閉鎖したM1911をホールド・オープンさせる際には、その操作に集中し過ぎでマズル(銃口)が上下左右に向き易くなるので、必ずターゲット方向に向けたままに出来るように練習して頂きたい。
この夏に海外で射撃を体験する人も多いかもしれないが、実銃射撃では何も精度やスキルを上げるだけでは無い。銃を安全に扱えてこそクールなシューターなのだ。
次回は実銃M4カービンについて語ります。
キャプテン中井(きゃぷてんなかい)
元陸上自衛官 レンジャー資格保有。NRAインストラクター、レンジ・セフティ・オフィサー、渡米歴26年。
著書:GunProfessional「撃たずに語るな」、「世界の銃最強ランキング 」学研